市街化調整区域では、原則として建物を建てることができません。しかし、実際は市街化調整区域内にも様々な建物が建っています。
つまり、市街化調整区域でも条件が整えば適法に建物を建てることはできるのです。
そこで今日は、「市街化調整区域で家を建てる方法ってありますか?」について書いてみたいと思います。
少し長くなるかもしれませんが、それだけ市街化調整区域で家を建てるためには、いろいろな項目での確認が必要になります。
そのためには、最低限の知識は身に付けていて欲しいと思います。それが、トラブル回避につながる一番の方法だと思うからです。
都市計画法で定められた「市街化を抑制すべき区域」のことです。市街化とは建物を建てて、街づくりを推進していくことを指します。
市街化調整区域の存在理由は、乱開発を防止することが目的です。
市街化調整区域は、全国の政令指定都市や県庁所在地、中核市などの比較的大きな自治体で指定されています。
戦後の高度成長期では、人口増加が著しい都市部おいて住宅地の乱開発が問題となっていました。
当時は都市の近郊においても農業が盛んに行われていたため、そのまま住宅の乱開発が進むと大切な農地が失われていく可能性がありました。
そのような時代背景の中、都市近郊にある農村地帯を守るため、開発を規制する必要性が出てきたのです。
そこで登場したのが「市街化調整区域」です。
「市街化区域」と「市街化調整区域」の線引き
都市計画法では、
急速に乱開発が進む恐れがあった自治体の区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」の2つにエリアを分けました。
「市街化区域」と「市街化調整区域」に分ける線引き行為は、多くの自治体で昭和40年代に行われています。40年代ということは地域によって線引き日が異なります。
ちなみに、加古川市の場合は「昭和46年3月16日」です。
市街化区域は、「既に市街化を形成している区域、または、おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」のことです。
市街化を促進していく市街化区域は、市街化調整区域とは対照的に建物を建てやすい地域です。
地域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分けたことで、宅地の乱開発は抑えられ、地域内の農業は守られてきたのです。
ただし、市街化調整区域は制度化から50年が過ぎています。
現在では、就農者が減っており、制度ができた当時とは時代背景が変わってきたことから、市街化調整区域内の不動産所有者のなかには、なかなか売れないなど悩みを抱えている人が増えています。
建物を建てるために必要な開発許可とは
市街化調整区域では、建物を建てるために「開発許可」と呼ばれる許可が必要となります。「開発許可」とは、開発行為を行う者に対して行政が出す許可のことです。
開発行為には、「区画の変更」「形状の変更」「性質の変更」の3種類があります。
「区画の変更」とは、敷地内に新たに道路を設置するなどの行為のことです。
「形状の変更」は、一定の高さ以上の盛り土や切り土のことを指します。
「性質の変更」とは、「宅地以外の土地」を「宅地」に変更することです。
ここでいう宅地とは、建物の敷地に供される土地のことを指します。
市街化調整区域では、土地の面積に関わらず、開発行為を行う場合には開発許可が必要になるので忘れないでください。
例えば、建物が建っていない雑種地や原野、山林などに建物を建てることは、「宅地以外の土地」を「宅地」に変更する「性質の変更」に該当します。
市街化調整区域では、土地の面積に関わらず、開発行為には開発許可が必要となるので、「性質の変更」を行う場合でも開発許可が必要となるのです。
ただし、開発許可は要件を満たせば許可は下りますので、市街化調整区域であっても、開発許可を取得すれば建物を建てることは可能になる、ということです。
一方で、許可要件を満たさない行為に対しては、当り前ですが開発許可は下りません。
つまり、要件を満たさなければ「宅地以外の土地」を「宅地」にする「形質の変更」ができないので建物を建てることができないのです。
線引き前の建物か、線引き後の建物かの確認
「線引き」とは、市街化区域と市街化調整区域に指定された日のことですが、建物が現存している場合、「線引き」前に建てられた建物なのか、「線引き」後に建てられた建物なのかが重要になります。
建築年月日が不明確な場合は固定資産税課税台帳などを調べる必要があります。
線引き前に建築された建築物の場合は、
1.同一の用途(所有者の変更以外の建築物の変更を伴わない)であること
2.同一の敷地(敷地の拡大や開発行為を伴わない)であること
3.同一の規模(既存建築物の延床面積の1.5倍以内・住宅については既存建築物の延床面積の1.5倍、もしくは280㎡以内)であること
以上の要件を満たしていれば、当初の建築主、及びその一般承継人(相続人など)だけでなく、第三者が取得した場合であっても、都市計画法の許可を受けることなく建替えや増築が可能です。
建物が建てられた時期によって、建築許可に対する要件が大きく変わりますので、建替えや増築を計画する場合は、必ず事前に確認を行ってください。
線引き後に建築された建築物の場合
「線引き」後においては、
原則として都市計画法の許可を受けなければ市街化調整区域で建築物を建てることはできません。
そのため、既存建築物の建築主、及びその一般承継人(相続人など)以外の人が当該建築物を利用・使用することも厳しく制限されます。
例えば、売買などで所有権を取得する場合には、建替え、増改築を伴わない場合であっても都市計画法の許可「用途変更の許可申請」が必要となります。
ただし、この場合、都市計画法令、審査基準で定められた許可要件に適合しなければ許可できません。
また、許可の前提として、当該建築物が「線引き」後に適法に建築された建築物(建築基準法に基づく確認済建築物等)であることが求められます。
このように、市街化調整区域では、開発行為ばかりではなく、増改築の建築行為や建築物の用途を変更する行為が都市計画法により規制されています。
したがって、市街化調整区域内の既存建築物を取得する場合には、確認や許可申請のために想定外の時間と費用がかかる場合があるほか、取得したものの建替えや増改築ができないなどのトラブルに遭う場合もあります。
そのため、「既存建築物が建築された年次」、「線引き後に建築された建築物であれば、許可等を受けて適法に建築された建築物なのかどうか」、「建替え、増改築や用途変更について許可を必要とする場合に、許可要件に適合するのかどうか」等を事前に確認してください。
「用途の変更」について少し説明します
「開発許可制度の手引」などを読むと、「建築物の新築、増築、改築」と並んで「建築物の用途の変更」とか「用途の変更を伴わない増改築」などの文言を目にすると思います。
この「用途の変更」とは・・・・
1.建築物の使用の仕方が変わる場合
建築物の「用途の変更」とは、建築物の使用の目的や仕方が変わることです。つまり、「何のために、どのように使用する建築物なのか」という点が変わることを言います。
例えば、一戸建ての専用住宅を店舗併用住宅に模様替えして使用する、あるいは、車庫
を資材倉庫にする、農業用倉庫を事務所にする、店舗を倉庫にする、などがその典型的なケースです。
2. 建築物の所有者が変わる場合
例えば、Aさんが所有する自己居住用住宅をBさんが購入し、そのままの状態、若しくは改装したうえで自己居住用住宅として利用する場合のように、建築物の所有権が第三者に移転される場合でも、「誰のために使用する建築物なのか」という点が変わるので、「用途の変更」に該当します。
ただし、建築主の配偶者、親、子、孫、相続人などに所有権が移転する場合は、「用途の変更」には該当しません。
特別区域指定などの区域指定の確認
市街化調整区域で建築できる住宅は、農家用住宅、分家住宅、線引き前住宅の建て替えなどに限定され、誰でも簡単に家を建てたり、住んだりすることはできません。
しかし、特別指定区域を指定すると、それ以外でも住宅が建てられるようになります。
たとえば、地縁者等の住宅区域、新規居住所の住宅区域、開発指定区域、などです。
上記のように、市街化調整区域内でも、都道府県の条例であらかじめ開発・建築が可能な区域が指定されている場合がありますので、購入を検討している土地が、どのような区域に指定されているのかの必ず確認を行ってください。
区域指定をされている土地であれば、利用度が高くなるので後に売却をする際にも有利になるケースがあります。
都市計画事業や土地区画整理事業などの開発地域の場合も建物を建築することが可能です。
ただし、建築行為には許可が必要です。
市街化調整区域で家を建てる方法
市街化調整区域で家を建てる方法は以下の4つになります。
1.開発許可が不要な建物を建てる
2.宅地利用が認められた土地で一定の建物を建てる
3.開発業者が開発許可を取得した土地上で建てる
4.立地基準を満たした土地の上に建てる
1.開発許可が不要な建物を建てる
市街化調整区域で家を建てる方法としては、まず開発許可が不要な建物を建てることがあげられます。
具体的には、「農林漁業を営む者の居住用建築物」は開発許可が不要です。
そのため、農家の人なら自宅を普通に建てることができます。
2.宅地利用が認められた土地で一定の建物を建てる
市街化調整区域では、宅地利用が認められた土地なら一定の建物を建てることができます。
例えば既に建物が建っている土地であれば宅地利用が認められていることから、「宅地以外の土地」を「宅地」に形質変更するための開発許可は不要となります。
ただし、
宅地利用が認められている土地において建てられる建物は、都市計画法第34条に該当する建物に限定されます。
都市計画法第34条によって建てられる家としては、「住宅兼用店舗」「分家住宅」「既存住宅の建て替え」があげられます。
つまり、
宅地利用が認められている土地であっても、自由に建物が建てられるわけではないのです。
「住宅兼用店舗」とは、
自宅と店舗が一体となった建物のことです。建築可能な店舗としては、日常生活のため必要な物品の販売、加工、若しくは修理その他の業務を営む店舗であり、自ら営むものに限定されています。
「分家住宅」とは、
農業を営んでいる本家から分家した人が建てる自宅のことです。分家住宅であれば、都市計画法第34条の条件を満たす建物であるため、市街化調整区域内の宅地で建てられることになっています。
「既存住宅の建て替え」とは、
既に住宅が建っている土地であれば、基本的に同規模・同用途の建物なら建て替えることが可能です。
同規模・同用途の建物に建て替えるのであれば、乱開発が行われるわけではないので、新たに自宅を建て替えることができるようになっています。
ただし、既に宅地利用が認められている土地の場合、開発許可は不要となりますが、市街化調整区域における建築許可(都市計画法43条の許可)は受けなければなりませんので、注意をしてください。
3.開発業者が開発許可を取得した土地上で建てる
市街化調整区域内においても、開発業者が大規模に開発した分譲住宅地が存在します。
このような分譲地は、開発業者が既に開発許可を取得していますので、後から購入した一般の個人でも普通に家を建てることができます。
開発業者が大規模に開発した住宅地は、見た目上、市街化区域にある住宅地とほとんど違いがありません。
建築可能な建物は低層の戸建て住宅に限るなどの一定の要件はありますが、その要件の範囲内であれば家を自由に建てることができる土地となっています。
4.立地基準を満たした土地の上に建てる
市街化調整区域でも、都市計画法第34条11号に定められた立地基準を満たす土地であれば、家を建てられる可能性は高くなります。
都市計画法第34条11号の規定は、以下の通りです。
市街化区域に隣接し、又は近接し、かつ、自然的社会的諸条件から市街化区域と一体的な日常生活圏を構成していると認められる地域であつておおむね五十以上の建築物(市街化区域内に存するものを含む。)が連たんしている地域のうち、政令で定める基準に従い、都道府県(指定都市等又は事務処理市町村の区域内にあつては、当該指定都市等又は事務処理市町村。以下この号及び次号において同じ。)の条例で指定する土地の区域内において行う開発行為で、予定建築物等の用途が、開発区域及びその周辺の地域における環境の保全上支障があると認められる用途として都道府県の条例で定めるものに該当しないもの
イメージとしては、市街化区域との境界付近のような土地が法34条11号の条件を満たしている可能性があり、家を建てられるケースもあるということです。
最後に一言!
市街化を積極的に行わない市街化調整区域では、市街化を進めている市街化区域とは異なり、商業施設や住宅の建設が原則認められていません。
しかし、都市計画法第34条に適合する建築・開発と認められ、自治体の許可を得られれば、建物を建築できる可能性があります。
また、農林漁業を営む者の居住用建築物や宅地利用が認められている土地や、開発許可を取得済みの土地ならば建築可能です。
ただし、市街化調整区域に建物を建てる前の許可申請手続きも、簡単なものではありませんので、気になる土地があるのであれば、まずは土地がある市区町村役場に相談してみてください。
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